コンプライアンスとは企業倫理の確立
金重先生
危機管理経営の観点から言えば、経営者が対処すべき事案は、大きく2つあります。
その1つは、個人情報漏洩、リコール隠し、偽装表示、セクハラ・パワハラなどいわゆるコンプライアンス違反と言われる事案です。これらが発生すれば企業活動は危機に直面します。コンプライアンスの意味については後で説明します。
もうひとつは、コンプライアンスでは解決のつかない事案も発生します。たとえば、地震・台風等の自然災害、新型インフルエンザ・エボラ出血熱等の広域感染症、破壊・妨害目的のDDoS攻撃や標的型メール、ランサムウエア等のサイバー攻撃、国際テロ等の緊急対処事態などです。先ほどもご説明しましたね。こちらのほうは、いくら企業がコンプライアンスを徹底しても、ある日突然襲ってくる危機です。もちろん、これらが発生しても企業活動は危機に直面します。そのどれをとっても甚大な被害をもたらす危機だからです。
つまり、大きくこの2つの危機について、企業は、その対処策を講じておくことが大切です。非常に大事な点ですので、このことをまず申し上げておきます。
そのうえで、コンプライアンスという点です。コンプライアンスは、通常、「法令遵守」と訳されていますが、この言葉は、「企業倫理の確立」という深い意味を持っていると私は思います。つまり、「コンプライアンス=法令遵守+企業倫理の確立」なのです。日本は法治国家ですから、わたくしたちはその憲法、法律、政令、規則や自治体の条例などに従う義務があります。
これが人間社会のルールです。同時に、企業社会では、会社の定款、規程、行動憲章などや業界の自主規制基準、申し合わせなどに従う義務があります。しかし、こうしたルールだけを守って企業活動を行っているだけでいいのでしょうか。
これらは最低限の決まりなのです。私は、これまでのさまざまな企業不祥事を見ていますと、「法令遵守」は当然のこととして、法令遵守を超えて、いま「企業倫理」に問題がある、つまり企業倫理の在り方が問われる事案が多いと認識しています。企業の社会貢献活動の在り方が問われていると言ってもいいですね。 たとえば、
- 人命救助を最優先する
- お客様やお取引先などへの公正中立な接し方
- 違反やミスを犯したときの事案の透明性や反省の弁
- お年寄り、障碍者など困った人に手を差し伸べる
- 冠婚葬祭ヘの温かい配慮
- SNSを通じて安易に、また匿名で誹謗中傷しない
などは、企業活動の中で、あるいは企業活動を越えて、全役職員が心がけることです。
特に、安全・安心が求められる時代であることについては、企業の役職員は十分な認識が必要です。これらは、まさに企業倫理として確立しなければならないのです。そのことを消費者も生活者も、そして、そうした視点からマスメディアも大きな関心を持っています。企業倫理は、経営上の大切なキーワードですね。
片山
なるほど、企業倫理を確立することが大切であることは分りましたが、では、せっかくの機会ですから、危機対処にあたっての経営者に必要な心構えを具体的にお聞かせ願えませんか?
憂いなければ備え無し
金重先生
そうですね。あまりたくさんでも覚えられないでしょうから(笑)、7つほど申し上げましょう。 それは、
- 「備えあれば憂いなし」ではなく「憂いなければ備え無し」との感性(意識)で臨むこと。
- 危機対処の良否は、現場にあるのではなく経営陣にあることを自覚すること。
- 「すべては事前準備で決まる」との考えで、対策を構築・実施すること。
- 最悪の事態を想定して最善の措置を講じること。
- 事案対処に当たっては「情報(収集・分析)で勝負する」姿勢で臨むこと。
- 社内外に甚大な被害をもたらすおそれのある事案に対しては、「自助を中心としつつ、共助を求め、公助で補う」との考え方で臨むこと。
- 組織の在り方として「平時はボトムアップ、有事はトップダウン」で対処すること。
の7つです。
それぞれ個々に説明すると長くなりますので、今日は割愛させてください。ご関心のある方は、また、別途ご相談をお受けしたいと思います(笑)。
片山
大変よくわかりました。
さて、企業経営者にとって、社員および企業の安全は最優先問題です。しかし、経営者としては危機管理に要するコストも考慮する必要があります。企業は、危機管理に必要とする費用、つまり安全コストをどのように考えていけばいいのでしょうか?